[ 鹿児島県喜界島 2015年9月 ]
喜界島へ渡った最大の目標、喜界島産サワガニです。喜界島は隆起サンゴで構成された島のようですが、不思議なことにサワガニが生息しています。というのはサワガニは純淡水でしか生息することができず、陸伝いにしか生息域を開拓できないのが一般論で、琉球列島のような島嶼という隔離された環境で分布域を広げるにはその島々がかつて大陸もしくは大きな離島と地続きで、一度も海面下に没したことがないということが前提になります。ウェブで喜界島の地史を調べたところ、周辺の島と地続きであったなど、どこにも詳しい記述がないのですが、琉球列島で隆起サンゴで構成された島は宮古島のような例外は除き沖永良部島、与論島、多良間島、粟国島など大概は少なからず淡水域があってもサワガニが生息していません。喜界島はその島々と似たような環境で面積が狭く、渓流環境が乏しい環境でありながらも多くのサワガニが生息していました。これは今まで琉球の島々でサワガニを追ってきた中でもトカラ列島宝島に次ぐ、最大のミステリーでした。そしてもうひとつ気になるのが、このサワガニも沖縄島、徳之島、奄美大島に産するサカモトサワガニの1つに含まれている点です。今回は喜界島に5日間滞在し、昼夜問わず本種の観察、撮影をしてきましたが、本種も宝島で見たサワガニと同じく、別種なのではないかと思いました。その理由は全部で2点挙げられますが、まず形態が大型種サカモトと異なり、巣穴の直径、一時採取した29匹の雄個体甲幅の平均を見て最大甲幅が3センチ若の小型サワガニで、甲囉表面は平滑で額に隆起箇所は見られず、全体的に体高があり丸みを帯びています。2つ目は生息環境で前者は流量のある河川の土手や周辺の湿地の石の下や隙間に穴を掘って住み、その穴は水面から近い位置に掘ります。後者は主に水の染み出す崖、斜面、畑の水路の土手に穴を掘って住み、その穴は大型個体ほど陸地側に掘るようで、ほぼ水辺から離れた場所でも穴から顔を出している個体が観察できました。このような生態は沖縄諸島に生息しているオオサワガニ類に似ています。また驚いたのは喜界島サワガニのカラーバリュエーションで、滞在中見たサワガニはほとんどが、体色がかぶることなくすべて異なった独自の体色を持っていました。サワガニの生息する島では決して面積が広くない喜界島ですが、ここまでに分化している産地を見たのは初めてでした。
最大個体の雄の鋏脚
赤身がかった個体
灰色の個体 青白い個体
水辺から離れた斜面に巣を掘る
生息環境